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10Gbpsの信号ってどこまで届く?シグナルコンディショング製品の必要性

[最終更新日 : 2017/09/19]


USBケーブル

近年、信号の高速化がどんどん進んでいます。我々に身近なインターフェースを例に取ると、HDMIは1.4(10.2Gbps) → 2.0(18Gbps)、USBは2.0(480Mbps) → 3.0(5.0Gbps) → 3.1(10Gbps) → 3.2(20Gbps)が挙げられます。クラウドサーバーをはじめとするデータセンター装置にもなるとさらに高速で、100Gbps通信という検討も進んでいます。

通信速度が速くなれば、私たちユーザー目線で考えればますます便利になりますが、それを実現するためにはエラーなく通信できるように、設計する上での課題を乗り越える必要があります。ここでは高速信号の設計をする上での伝送距離の課題と対策を基本的なところから説明したいと思います。

高速信号通信する上での課題

HDMIやUSBなど、みなさんが使用する際のケーブルの長さは何mくらいでしょうか?家電量販店に行ってみると種類がとても豊富にあり、HDMIケーブルは5m、USBケーブルは3mといった製品も並んでいると思います。

では、これらのケーブルはもっと高速な上位インターフェース規格にもそのまま対応できるのでしょうか?

コネクタの形状はひとまず置いておくとして、ケーブル長の観点だけで考えると、答えは「NO」です。それは、ケーブルに信号成分を減衰させてしまう挿入損失(インサーションロス)という特性が存在するためです。(厳密にはケーブルだけではなく、プリント基板やコネクタにも挿入損失が存在します。)

プリント基板やケーブルの挿入損失(インサーションロス)

ケーブルに限らず、信号が通過する伝送路全てに挿入損失があり、これが波形を鈍らせてしまい、伝送できる距離に悪影響を及ぼします。

以下に3種類の基板材質におけるインサーションロス特性を示します。プリント基板上の高速信号線の幅(線幅)と線の長さ(線長)は共通です。

異なる基板材料に実装した10インチのマイクロストリップ・ライン

図1:異なる基板材料に実装した10インチのマイクロストリップ・ライン
(出典:Texas Instruments Inc. LVDSオーナーズマニュアル Part 2)

上記からわかるように、信号の損失量は周波数が高くなるにつれて大きくなります(dBのマイナス値が大きいほど損失は大きくなります)。Nelco 4000-6 (FR4)の特性を例に取ると-1.0dB@1GHz、-4.5dB@5GHzであることがわかります。1Gbps (500MHz)の信号が10Gbps (5GHz)になると、同じ基板で損失量は4.5倍にもなります。それだけ波形が減衰して乱れてしまいます。波形の「減衰」、「乱れ」と一言で言ってもイメージが沸きにくいと思いますので、Texas Instruments(以降、TI)社のWEBENCH Interface Designerを使用して、伝送路(基板やケーブル)を通過する前後の波形をシミュレーションして見てみましょう。

WEBENCH Interface Designerとは:

高速インターフェース回路における、最適なデバイスの選択や任意ポイントにおける信号品質、信号の整合性をシミュレーションで確認することが可能です。高速信号のシミュレーションには、通常、高価なソフトウェアを必要としますが、TI社はWEBENCHを無償提供しています。利用にはmyTIへの登録が必要となりますが、下記URLよりアクセスできますので、是非お試しください。

WEBENCH Interface Designer

シミュレーション回路

図2:シミュレーション回路

3.125Gbpsの信号がケーブルを通過する前後の波形シミュレーション

図3:3.125Gbpsの信号がケーブルを通過する前後の波形シミュレーション

12.5Gbpsの信号がケーブルを通過する前後の波形シミュレーション

図4:12.5Gbpsの信号がケーブルを通過する前後の波形シミュレーション

図3は10mのSTP(Shielded Twisted Pair)ケーブル(-20dB @6.25GHz)を3.125Gbpsの信号が通過した際の波形をシミュレーションした結果です。TX_OUTは信号源の出口の波形ですので、とてもきれいに開いています。ところがケーブル経由後のSC_INの波形を見てみると、3.125Gbpsでは波形の立ち上がりと立ち下がりが鈍ってしまい、EYE(※1)の開口(波形の縦横方向の開き)が小さくなってしまっています。

図4は12.5Gbpsの信号をシミュレーションした結果です。こちらを見るとEYEが完全に閉じてしまっています。挿入損失の特性グラフに示した通り、信号の減衰は高速になればなるほど大きく、損失が大きければ元の波形を維持できなくなり、正常な通信ができなくなります。今回の12.5Gbpsの例では確実に通信ができませんが、どうしてもこのようなケーブル/基板を使わざるを得ないケースもあると思います。そのようなときに問題を救済してくれるのがシグナルコンディショナーです。

※1:波形を観測した際に、線に囲まれた中心部分が目の形に似ていることからEYEパターンと呼ばれています。これが大きく開いていればいるほど、信号品質が優れている(0・1の信号を正しく検出できる)ことになります。(図5参照)

EYEの開口

図5:EYEの開口

シグナルコンディショナーの機能

シグナルコンディショナーとはその言葉の通り信号を調整する製品です。先程のシミュレーションで減衰した波形をシグナルコンディショナーに通すとどうなるか見てみましょう。

シミュレーション回路

図6:シミュレーション回路

12.5Gbpsの信号がシグナルコンディショナーを通過する前後の波形シミュレーション

図7:12.5Gbpsの信号がシグナルコンディショナーを通過する前後の波形シミュレーション

12.5GbpsはEYEの開口が全くない状態でしたが、そこから大きく改善したことがわかります。これがシグナルコンディショナーの効果です。

シグナルコンディシナーでは一般的に「イコライザ」や「エンファシス」という2種類の技術が使用されます。いずれも信号が通過する経路の損失を補正する技術ですが、「イコライザ」や「エンファシス」はどのように異なるのでしょうか?

イコライザ

「イコライザ」はケーブル経由後の減衰した波形を受信後、挿入損失相当の補正をかけて、元の波形を再現します。製品によって補正能力は様々ですが、10Gbps以上でも+35dB以上の補正ができるものが多いです。(図8参照)

イコライザによる信号補正方法

図8:イコライザによる信号補正方法

エンファシス

「エンファシス」は、ケーブルを通る前に、予め、挿入損失分の補正を加えておき、ケーブル通過後に元の波形が再現できるようにするものです。イコライザのような高い補正能力は備えておらず、損失が大きいような場合はエンファシスだけでは補正しきれません。通常は、受信側のイコライザでの補正を前提とし、補正能力(Gain)が不足するような場合に送信側のエンファシスと組み合わせて使用します。(図9参照)

エンファシスによる信号補正方法

図9:エンファシスによる信号補正方法

TI社のシグナルコンディショナー製品ラインアップ

図10はTI社の代表的なシグナルコンディショナー製品の一覧です。この表には記載しきれていませんが、HDMI、USB、DisplayPort、SDIなど各種インターフェース向け専用のシグナルコンディショナー製品ももちろん取り揃えておりますので、是非、弊社まで一度お問い合わせください。

TI社のシグナルコンディショナー製品一覧

図10:TI社のシグナルコンディショナー製品一覧

まとめ

以上からわかるように、「イコライザ」や「エンファシス」の技術を使いこなし、いかに挿入損失を改善するか(いかに元の波形を再現できるか)が高速信号を伝送する上でのキーポイントとなります。これにより、ケーブル長や基板上のトレース長の延長が実現でき、伝送可能な距離が決まります。ケーブルや基板上の挿入損失とシグナルコンディショナーの補正量の関係が、|挿入損失 (Loss [dB])| ≦ |補正量 (Gain [dB])| であれば、その伝送経路は伝送できると考えることができます。

インターフェースやケーブルに制限はつきますが、技術的には10Gbpsの信号でも100m伝送が可能です!!WEBENCH Interface Designerを使用すれば、実際に使用するケーブルや基板の特性に合わせた波形シミュレーションができます。事前に伝送特性を把握する上でとても有効なツールですので、WEBENCH Interface Designerを使用したシミュレーションを是非お試しください。

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